はんかた

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金色の標

 …しゃらしゃらと音をたてながら落ちていく、秋の足跡。
 風に吹かれて、盛大に落ち葉が舞っていく。辺り一面を金色に染めた風景に、『遊戯』は心なしか感嘆の溜息を洩らした。
 何処までも続く銀杏並木は、柔らかな秋の日差しを浴びてきらきらと光り輝いている。
所々緑色を残した葉っぱが良いアクセントになって、黄色に染まった葉をより綺麗に見せていた。枝にはかなりの葉が残っているのにも関わらず、道路を枯葉が覆い尽くしていてコンクリートが見えない。宛ら黄色の絨毯が敷き詰められた状態とでも言おうか……。
 『遊戯』は視線を木々に向けながら、ゆっくりと足を運ぶ。何時も賑やかな周囲は、驚くほど静かだった。穏やかな土曜日の午後。普段は誰かしら傍にいるだろう。ゲームセンターに行ったり、デュエルをしているかもしれない。それともカラオケだろうか?
 本来ならこの時間に表に現れているのは自分じゃなく、相棒の方だろう。しかし、珍しくも皆の予定が埋まってしまい、特に予定もなく暇になった本来の持ち主は、躊躇う事無く大切な時間を『遊戯』にくれたのである。たまには誰にも邪魔されず、一人で時間を使ってみるのも良いだろうと。ご丁寧にパズルを置いていくよう指示して、心の部屋に消えてしまった。
 暫く思案にくれていた『遊戯』だったが、お言葉に甘えて一人散歩に出かける事にした。
 日の高い内に一人になることは稀なことである。滅多にない時間を少しだけ使わせてもらう事にした。
 地面に落ちた銀杏の葉を一枚掬う。日差しに透かすとより一層金色に見える葉を飽く事無く見つめ続けた。時折指で弄びながら、扇状の葉を空に向って飛ばす。ひらひらと舞い落ちていく様が面白くて、『遊戯』は同じ動作を繰り返した。
 ———不意に強い風が巻き起こる。
 突風と共に砂埃が巻き起こり、『遊戯』は思わず目を被った。瞬間、脳裏を掠めていく風景(ヴィジョン)。
 一面の金砂。舞い上がる砂塵……。
 ……そして、その向こうには———。
 はっと我に返り、『遊戯』は目を瞬かせた。と、同時に掴みそこなった遠い残像(きおく)が掻き消えていく。風と共に、枯葉も記憶も遠くに攫われていった。
 何処か疲れたような溜息を一つ吐き出す。
 風に煽られて縺れた前髪を無造作にかきあげ、『遊戯』は近くに設置してあったベンチに腰を降ろした。
 最近、こうした出来事が『遊戯』を襲う。そのくせ、何一つはっきりとしたものは残らない。それが余計に『遊戯』を苛立たせた。
 ……金色の記憶の先にある己の生きた証。
 取り戻したいと思う一方で、思い出すのを恐れている自分がいる……。
 全てを思い出した後、一体どうなってしまうのか———。
 このままではいられないのは分かっていても、今現在、『遊戯』にとってかけがえのない存在がたくさんあり、どれも無くしたくないと思う。
 仲間も、相棒も、そして……。
 「こんな所で、何をぼーとしている……。」
 不機嫌そうな声音に、思考の淵にいた『遊戯』は現実に引き戻される。影の指した方に目を向ければ、長身のシルエットが映った。
 『遊戯』は口元に不敵な笑みを浮かべ立ち上がると、改めて影を作った人物を見遣る。
 あまりのタイミングの良さに、『遊戯』は何だか笑いたくなった。
 「……何が、可笑しい。」
 『遊戯』の態度に相手は少々気分を害したようだ。言葉の端に険が含む。
 「別に…。大した事じゃないさ……海馬。」
 その返答に納得しないのか、眉根に皺を刻む海馬に、『遊戯』は逆に質問した。長い指先を海馬に向ける。
 「……お前の方こそ、なにやってるんだ?」
 何時もと変わらぬ挑戦的な視線に、海馬も不敵な笑みをかたどっていく。先ほど感じた、儚く消えてしまいそうな存在はもう何処にもない。あるのは、強烈な印象を放つ、とても無視などしていられない相手。唯一無二の好敵手。
 勿論海馬にとって、それだけの存在ではないが……。
 「丁度良い。お前を迎えに行く途中だったのだ。…ついて来い。」
 「…っオイッ!ちょっと、待て!」
 有無を言わさず身を翻して歩き出す海馬に、『遊戯』は慌てて抗議する。あくまでも足を止めようとしない海馬に、『遊戯』は小走りで追い抜き、目の前に立ちはだかった。
 「何だ…?」
 「お前…少しはこっちの都合も考えろッ!」
 折角相棒がくれた貴重な時間を、易々と海馬に持っていかれるのは大いに頂けない。
 「……ぼーとしていただけなら、俺の予定に付き合っても何ら問題はあるまい?」
 「あ、あれは、ぼーとしていたんじゃなく、景色を眺めていたんだッ!」
 「景色……?」
 『遊戯』の言葉に、やっと気付いたとばかりに海馬は辺りを見渡す。なるほど、確かに秋ならではの情景はそれなりに目を楽しませてくれた。しかし……。
 「…フンッ…。どうせなら、もっと凄いものを見せてやろう。」
 「なに…?どういう……」
 「車を待たせてある。さっさと行くぞ。」
 最後まで言わさず、海馬はこれ以上は面倒とばかりに『遊戯』の腕を取った。半ば引きずるようにして歩き出す。
 「おいっ!海馬ッ……!」
 無駄と知りつつも、文句の一つでも言ってやろうと『遊戯』は口を開いた。そこへ狙いをすましたように再び突風が二人を襲う。予想しなかった気まぐれな風に、『遊戯』は強く瞼を瞑った。ほの暗い闇の中、庇うように『遊戯』を胸に抱きこむ海馬の仕草に、無意識に息をのむ。遠い昔に、似たようなことがあったような、そんな気がした……。
 うっすらと瞳を抉じ開けると、広い胸板が視界を覆う。視線を横に移せば、ぼんやりと金色の世界が滲んでいた。一瞬、『遊戯』の頭に浮かんだ一場面(ワンシーン)。相変らず、掴み取る前に消えていってしまったけれど……。
 「『遊戯』…?」
 らしくなく海馬が優しげに名を呼ぶ。その名は本来相棒の名前で、自分の本当の名前ではないけれど、何故か心の奥まで染み渡っていく。此処に自分という一つの存在が当たり前のように認識されているのを『遊戯』は嬉しく思った。
 ……金色の先にある標。
 海馬は『遊戯』にとって、きっとなくてはならない存在だろう。
 「仕方ないから、付き合ってやってもイイぜ……?」
 照れ隠しに、海馬の胸を押し退け腕から抜け出す。
 先を歩き出した『遊戯』に、海馬は面白そうな笑みを零したが、敢えて何も言わずに後に続いた。
 二人が去った後の銀杏並木は、静かにそして少しだけ淋しげに木の葉を揺らしていた。

*END*

……何時も×2、当初思っていた話とは微妙にずれていくのは何故でしょう?最初は秋の素晴らしさを書きたかった筈なんですが……。おかしい。こんな筈ではなかったのになぁ。何だか微妙に暗くなってます。う〜む。