はんかた

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ヤドリギとKiss

 街にクリスマスソングが流れている。
 気の早いところでは、10月のハロウィーンが過ぎるのと同時に、BGMとして使用している店もあったが、今では何処に行っても耳に馴染んで珍しくない。
 特に本日は、12月24日…クリスマス・イブというだけあって、それ以外の曲は流れていないという程、色々なクリスマスチックな音楽が溢れ返っていた。
 原曲をそのまま使ったり、明るくテンポ良くアレンジしてあったり、歌がついていたり…聞けば、ああ…と思わず頷いて、つい歌詞が頭を掠めていったりする。
 華やいだ、浮かれている街並みに、自然と口元が緩み笑顔が零れてしまう。そんな楽しさが、至るところに見え隠れしていた。
 『遊戯』は通いなれた商店街を、普段では滅多に見られない、まるでスキップでもしそうな軽い足取りで通り過ぎていく。それでも店の前を通る度に、何かしらの荷物が増えていく姿は、流石『主夫』と言うべきか……。

 母親の代わりに、単身赴任となった父に付いて行った『遊戯』は、家事全般が得意である。何も出来ない父を助けるため、自然と身につけた能力だが、この度、ひょんな経緯から母親と入れ替わりに実家に戻っていた。
 元々、母親が家に残った理由は、年老いた義父と『遊戯』の双子の兄である『ゆうぎ』がいたためである。…因みに、兄弟揃って同じ名前なのは、父親の短絡的な行動のせいだ。要は、間抜けとしか言いようがない。物心が付く頃に聞いた話に、兄弟揃って呆れ返ってしまい言葉も出なかった。
 ……名前の由来はさて置き、小さいながらも、玩具屋を経営していた祖父が、店を畳みたくないと頑固に言い張り、仕方なく単身赴任を余儀なくされた父を心配した母が、苦肉の策で取った行動が、コレである。
 兄の『ゆうぎ』より、弟である『遊戯』に白羽の矢が立てられたのは、全てにおいて『遊戯』の方が、家事能力が高く、呑み込みが早かったからだった。
 単身赴任が決まったのは、『遊戯』が中学に上がる直前だったので、コレ幸いにと入学の決まっていた学校の門を潜る前に転校し、赴任先の中学校に編入の手続きをした。お陰で他の生徒と同じに入学式を迎え、転校生という違和感をあまり感じずに馴染めた事はラッキーと言えよう。
 只、慌しく地元を離れる事となり、昔馴染みとゆっくり別れの挨拶が出来なかったのが残念だった。しかし、『遊戯』は長期休みの度に帰省していたので、地元の友人たちと頻繁に会う機会があり、寂しさはなかった。
 『遊戯』の帰省は、父について行く時に決めた条件の一つで、そうでもしないと、『ゆうぎ』が納得せず、またついて行くと言い出しかねなかったので(実は実際に言った)、そう取り決めたのだった。…『遊戯』一人で、父と兄の世話をするのはキツイと判断した故の打開策である。
 そうして『ゆうぎ』は地元に残り、『遊戯』は父と共に赴任地へ赴き、家族が揃うのは長期連休の時のみになった。……蛇足だが、『遊戯』が家に戻って来ている間で、父親が仕事の場合は、母が代わりに世話を焼き、父の休暇と共に家に戻ってくる訳である。
 そんな生活が4年も過ぎ、生活習慣に慣れきった頃に、環境が一変する出来事が再び勃発した。
 何と、『ゆうぎ』が芸能界入りしたのだった。何気ない母の一言で、試しに受けたオーデションが、『ゆうぎ』の運命を変えた。歌手としてではなく、銀幕のデビューだったが、どちらにしろ全くの素人だった『ゆうぎ』は、無我夢中で主役を演じきり、その映画が爆発的な人気を呼ぶ事となったのだった。
 そして……。
 その約1年半後、『ゆうぎ』のデビュー作となった映画の第2弾が決定し、紆余曲折の末、今度は『遊戯』まで映画に出演する結果となり、同じく芸能界入りを余儀なくされた。そのせいで、通いなれた学校を転校する羽目となり(しかも、当の本人は事後承諾だった)、これまた何の挨拶も出来ないまま学校を後にした事実は、『遊戯』の中で、かなり根強く残っている。何時か、この借りは返してやるッ!…と心の中で思っているコトを知っているのは、片割れの『ゆうぎ』だけだろう。 そして、父の世話が出来なくなった『遊戯』に代わって、母が赴任先の父の元に向ったのは言うまでもない…。
 かくして、『主夫』と『芸能人』プラス『学生』という、三足の草鞋を履く生活が始まったのだった。


 『遊戯』が不本意な芸能生活を送る事となってから、1年経つ。
 きっかけはクリスマスだったから、本当に丸々1年という事になる。
 ……思えばこの1年に、色々な事があった。
 映画に出演し、それが全国に公開され、その映画が今度はドラマ化になり、その主題歌を『遊戯』と『ゆうぎ』が歌う事になり、ついには歌手デビューするとは、1年前の今頃には考えも及ばなかっただろう。
 よもや、自分が芸能界に入るなどとは……。
 今となっては、笑い話にするしかない。
 この世界に入ってしまった以上、何が何でも負ける訳にはいかないと、『遊戯』は心に決めた。元来、負けず嫌いな性格である。他人に見下されるのは、はっきり言って趣味じゃない。
 幸い、所属するプロダクションは意外にも居心地が良く、先輩は良い人だった。彼の人の名を城之内克也という。『ゆうぎ』が絶大の信頼を置いている人物で、『遊戯』も彼を高く評価している。裏表のない、この業界の先輩として、とても尊敬出来る人だった。何かと手助けをしてくれて、心強い味方である。
 『遊戯』が所属しているプロダクションは一風変わっていて、とある一族が経営していた。城之内は、その経営者の身内で、プロダクションを立ち上げた理由は、…彼らを芸能界に入れたかったからである。…なので、このプロダクションに所属している芸能人は、『遊戯』たちを抜かして、その一族の関係者しかいない。しかも少数精鋭で、皆、各方面で一流として名を馳せていた。
 遊戯の脳裏に、とある人物の顔が過る……。
 忌々しくも思い出したくない、奴の、白磁のように整った顔。そして、氷のような冷たい眼差し……。
 けれど……。
 けして、上辺に騙されてはいけない事を『遊戯』は知っている。
 奴の本性は、炎よりも熱い魂をその身に秘めているのだ。油断すれば、その身を焦がす激しさに、全てを失ってしまうだろう。奪い尽くされ、焼きつかれて、何もかも残らない。台風(ハリケーン)の嵐に巻き込まれ、並大抵の人なら吹き飛ばされるのが落ちだ。
 ……海馬瀬人。
 超一流のモデルで、世界に名高い海馬コーポレーションの後継者である。
 誠に信じがたいが、城之内の従兄弟でもあり、『遊戯』とは映画で、好敵手(ライバル)という役柄を演じていた。 知らず『遊戯』は溜息を吐く。
 そんな大層な肩書きを持つ奴が、何を好き好んで自分を選ぶのか、理解に苦しむ。唯我独尊で、傍若無人で、自分勝手で…文句を上げればきりがない。しかし、どうしてか惹かれてしまう。
 ……この感情は、多分『好き』というものだ。一時期は、認めたくなくて、拒絶して捨てようとした事もあったが、認めてしまえば納得出来る。『遊戯』にとっては、全く不本意だが……。
 海馬に言わせれば、『遊戯』も同じようなものだと答えるだろう。…多分、お互いの魂の色が似ているのだ。それでいて、相反している。だから、惹かれ合うのかもしれない。
 二人は、好敵手で、仲間で、……そして恋人で。
 今では、なくてはならない存在になってしまった……。
 しかし、『遊戯』は素直じゃないので、そんな気持ちは海馬に教えない。どうせ海馬のことだから、薄々は気付いているだろうと思う。けれど、『遊戯』からは絶対に言わないと決めていた。
 手持ちの札を一度に見せてしまっては、ゲームはつまらない。
 恋はゲームに似ている部分がある。相手に手の内を明かしてしまった方が負け。
 それでも何時かは、全てを曝け出す時が来るかもしれない。
 それは、海馬が先か、『遊戯』が先か……。
 本当は、勝敗で恋愛が成り立つなんて、『遊戯』は思っていない。しかし、こういう関係も自分たちらしくて、面白いかもしれないと思う。未来がどうなるかわからないが、今を大切にしたかった。答えは急がなくてイイだろう。時間はまだまだ無限に、ある……。


 思考に沈んで、すっかり足が止まっていた。
 今日はこれからやる事が山ほどあるというのに、海馬のせいで無駄に時間を取られてしまった。…追記するが、けして海馬のせいではない。半分以上は八つ当たりである。『遊戯』の場合、海馬に対してだけは、どうしても素直になれない。良くも、悪くもだ……。
 大荷物を抱え、家に辿り着く。
 何とかドアを開け、玄関先に荷物を置いた。
 「今、帰ったぜ…。」
 「おかえり〜♪」
 ドアの開く音で、『遊戯』が帰路に着いた事を知ったのだろう。待ち構えていたかのように、『ゆうぎ』が素早く玄関まで迎えに来る。……そして、意外な行動に出た。
 ……チュッ。
 その場にそぐわぬ音が木霊する。
 顔を上げた『遊戯』は、頬に手を当てたまま、硬直して暫く固まってしまった。
 表現するなら、目は点である。
 「……お、オイッ…相棒!」
 「へへ〜ん♪上を、見て?」
 指差す方向に目を移せば、頭上に茶色と緑で出来たわっかが飾られている。……クリスマス・リースだ。
 リースには定番の、ギザギザの葉であるヒイラギと、緑黄色の果実がついたヤドリギの枝が添えられている。
 「…ヤドリギの下にいる人には、キスしてもイイんだよ?」
 まるで、悪戯が成功した子供みたいに目を輝かせて、『ゆうぎ』は笑った。
 「全く…後で、覚えてろよ?」
 「もう忘れました。…コレ、持って行くね〜♪」
 「おいッ…!」
 逃げるように、荷物を持って退散する『ゆうぎ』の後姿を見送り、『遊戯』は仕方なく溜息を洩らす。けして怒っているのではなく、まんまとしてやられた事が悔しい。
 しかし……。
 「こんなところに飾るとは……。相棒のヤツ、何を考えているんだ?」
 玄関は、絶対に人が通る場所である。最も狙いやすいと言えば、狙いやすい。
 「……もしかして…。」
 辿り着いた答えに、『遊戯』は内心ほくそ笑む。
 「…ふ〜ん。なるほどな……。」
 仮にも双子である。お互い考えているコトなど、お見通しだった。『遊戯』は相棒の苦心に心中でエールを送る。それを評して、玄関のリースは外さない。
 「ま、上手くいくコトを祈ってるぜ?…相手のためにも、な……。」
 『遊戯』は靴をきちんと揃え、もう一度リースを仰ぎ見て口元に笑みをひく。暫くリースの出来を観察してから、相棒が待っているだろう居間へと身を翻した。


 居間は、随分と賑やかな扮装を遂げていた。
 『遊戯』が買い物をしている間に、『ゆうぎ』が頑張ったのだろう。いかにも、クリスマスらしい飾り付けで部屋は彩られていた。
 窓や壁にはクリスマス・リース。金や銀、赤と緑のモールが部屋中を横断し、蛍光灯の明かりに反射して、キラキラと輝く。
 天上近くまで聳えるツリーには、オーナメントやライト、それに雪に見立てた綿毛。天辺に、随分くたびれた金の星が輝いている。
 所々剥げて下地が見えている星は、『遊戯』たちが幼い頃から使っていたものだった。ツリーの飾りなどは、幾つか紛失したり壊れたりして買い足したが、星だけは今まで大事に使われて来たのである。過去の楽しい思い出が詰ったこの星を、二人は何時も大切に保管していた。……きっと、これからもずっとそうしていくのだろう。
 その年季の入った一番星を、これまたヒイラギとヤドリギで出来たリースが取り囲み、豪華に見せている。……ヒイラギとヤドリギのリースは、どうやらこのツリーと、玄関に飾られた二つだけのようだ。得てして、人が集まり易い場所である。
 「しかし、随分とデカいクリスマス・ツリーだな……。」
 『遊戯』が感嘆の溜息をつく。それに『ゆうぎ』が、嬉しそうに相槌をうった。
 「ホント、大きいよね~。モクバくんってば、こんな大きいツリーをくれるんだもん。家に入らないかと思ったよ。」 ツリーの出所はモクバで、本物の樅の木だった。つい先程、届いたばかりである。……流石、金持ちのやるコトは普通と違う。半分呆れたような感想を思いながら、ツリーをシゲシゲと見つめた。
 やはりと言うか…緑の部分が圧倒的に多い。家にある飾りだけでは、到底間に合う筈がなかった。
 『遊戯』は、壁に掛けられた時計に視線を移す。
 「…取り合えず、皆が来るのはまだ先だろ?オレは料理を完成させるから、相棒は着替えて来いよ。……服がゴミだらけ、だぜ?」
 笑いながら『ゆうぎ』の頭についた、モールのカスを取ってやる。それを受けて、『ゆうぎ』は改めて自分の姿を省みた。彼方此方に、綿毛や樅の木に飾り付けた際についたであろう葉や土が、服に付着している。
 「わっ…、すごい!?気付かなかったぁ……。」
 「ストップッ、相棒!!…掃うなら、外に行って来い。序でに掃い終わったら、この部屋に掃除機を掛けておいてくれよ。」
 何気なく掃おうとする『ゆうぎ』を慌てて制止して、『遊戯』は玄関の方向を指差す。
 「え〜!?掃除機をかけるんなら、ココで掃ってもいいんじゃない?」
 「ダメだ。掃った拍子に、ゴミが何処に飛んでいくかわからないだろ?」
 折角綺麗に片付けた部屋を、これ以上汚されてはたまらない。…全く、主夫のカガミである。
 「は〜い。わかりました…。」
 『遊戯』の言い分に反論する余地はなく、『ゆうぎ』は服からゴミが落ちないように、そろりと出て行こうとした。
 「あッ、おい、相棒…。」
 すごすごと退散しかける『ゆうぎ』に、『遊戯』は声を掛け引き止める。それに立ち止まり、『ゆうぎ』は顔だけ相手に向けた。
 「飾り付け、大変だったろ?…ありがと、な?」
 「も〜う、なに言ってるの?もう一人のボクだって、昨日から、今日のために色々と料理を準備してくれてるじゃないか。お互いサマだよ……。」
 『遊戯』の労いの言葉に、『ゆうぎ』は若干顔を赤らめながら、照れ臭そうにお返しする。
 お互い、芸能人という多忙を極める中、この日のために時間を割いて準備して来た。よもやイブに、完全とはいかなくても休みを貰えるなんて思いもしなかったが、上手い具合にポッカリと仕事が空いたのだった。……きっと、普段から頑張っている二人に、神様がくれたプレゼントなのかもしれない。
 『ゆうぎ』は去年のコトを思い出す。去年は映画の撮影などで忙しく、すっかりクリスマスなんて忘れていた。思い身体を引きずるようにして帰宅したら、『遊戯』が料理を作って待っていてくれたのだった。それはとても嬉しくて、とても楽しかった。
 まさか今年は無理だろうと思っていただけに、こうしてパーティーを開くことが出来て幸せに思う。……それに今年は。
 去年、クリスマスを同じく忘れていて、仕事で終わってしまった城之内くんを、『ゆうぎ』はパーティーに誘った。その時の喜びようはスゴかった。周囲の目も気にせず、その場で飛び上がってしまう程のはしゃぎぶりに、『ゆうぎ』は驚きながらも、そこまで喜んでくれるなら…と、気合が入ったのは言うまでもない。
 生憎夜まで仕事が入っていた城之内だったが、仕事が終わったら、即行でかけつける約束を交わし、『ゆうぎ』は結構ご満悦だった。
 去年が散々だった城之内をいっぱい喜ばせたい…その一心で色々とリサーチし、セッティングにと『ゆうぎ』は頑張ったのである。
 それが『遊戯』の言葉で認められ、実証されたコトがものすごく嬉しい。……城之内も喜んでくれるとイイな…と『ゆうぎ』は思った。
 「相棒…?」
 「あッ…!?」
 何時までも呆けている片割れに、『遊戯』は訝しがる。現実に引き戻され、『ゆうぎ』はやるべき事を思い出すと玄関を目指した。
 「ごめ〜ん。すぐ、片付けるネ……。」
 「ああ…、頼んだぜ。」
 出て行った『ゆうぎ』に一声掛け、『遊戯』はキッチンに向う。腕を捲くり、戦闘準備に入るために気合を入れた。
 「さてと…、オレはオレで、始めるか…!」

 「メリークリスマス!」
 「メリー、クリスマ〜ス!」
 クラッカーが部屋中に鳴り響く。勢いよく飛び出したカラフルな紙が、辺りに飛び散った。
 「『遊戯』ッ!コレ、美味いな!!」
 早々と料理に齧り付く城之内が、『遊戯』に賛辞の言葉を述べる。テーブル上は、乗せ切れない程の『遊戯』自慢の一品が並んでいた。
 「全く、城之内はガッツき過ぎなんだよなぁ。ちょっとみっともナイぜぃ。」
 「…ホントに。少しは、ゆっくりと味わって食べるという芸当は出来ないわけ?」
 「ぐっ…!?」
 モクバと乃亜の容赦ない言葉に、城之内は食べ物を喉に詰らせる。目尻に涙を浮かべながら、胸を叩いた。
 「ハハッ…。別に、マナーなんか気にして食べなくてもイイぜ、城之内くん。堅っ苦しい席じゃナイんだし、な…?」
 タイミングよく現れた『遊戯』が、城之内に飲み物を差し出す。有り難い好意に感謝し、城之内は一気にコップをカラにした。
 「は〜……。死ぬかと、思った…。サンキュッ、『遊戯』!」
 「だから、城之内は、口にモノを詰め込み過ぎなんだよ。」
 「早食いは太りますから、気をつけた方が良いんじゃないですか?」
 「うるせいッ!どう食おうが、ヒトの勝手だッ!!」
 年下相手にムキになるなど、城之内も大人気ない。これでは、どちらが大人かなんて、とても言えないだろう。最年長がコレでは、ちょっと情けなかった。
 「まあまあ…。折角のクリスマスなんだから、3人とも喧嘩しないでくれよ。それから、お代わりはまだまだあるからな。遠慮なく食べてくれよ?」
 「ああ…。いっぱい食べるからな、『遊戯』!」
 「こんなに美味しいものが食べられて、幸せです。本当に、料理がお上手なんですね。」
 城之内とは180度違う態度を、二人は『遊戯』に見せる。これも、人徳の差であろう。
 「さ〜て、次は何食べっかな〜。」
 そんな事を全然気にしない城之内は、既に次のターゲットに照準を合わせていた。そこへ『ゆうぎ』のお声が掛かる。
 「城之内くん。このチキンも、美味しいよ〜♪」
 「ナニッ、ホントか!?よしッ、次はソレを食べようっと……。」
 嬉々として『ゆうぎ』のもとへ向う城之内を、モクバと乃亜は溜息でもって見送った。
 「あ、オレ、ツリーを見て来よ~っと。」
 気を取り直したモクバが、ツリーに向って歩き出す。狭い部屋なので、数歩歩けばツリーに辿りついてしまう。
 モクバはツリーを見て、鼻腔を擽るスパイシーな香りに首を傾げた。
 「なあ、『遊戯』。コレって…。」
 後ろを仰ぎ見ようとしたところに、乃亜がやって来る。そして……。
 チュッ…。
 「わっ!…い、イキなり、ナニすんだよ!?」
 額に手を当てたモクバが、乃亜に異議を申し立てた。吃驚して、モクバは目を丸くする。
 「ヤドリギの下に立っているヒトには、キスして良いんだよ、モクバ。」
 にっこりと笑って説明する乃亜は、上を指し示す。
 「へッ…?」
 間抜けた表情で、誘導されるままモクバは上を見た。ツリーの天辺には、緑と茶色の中で、一際目立つ一番星が存在を誇示している。
 「…あの星を囲んでいるのが、ヒイラギとヤドリギだよ。実がついている方がヤドリギ。イギリスでは、クリスマスにヤドリギの下に立ったヒトにはキス出来るという風習があるんだ。だから好きな相手を上手くその下に誘ったり、態と立ってたりするんだって。」
 「へ〜、乃亜って、モノ知りだな…。あ、じゃあ、オレもするぜぃ。」
 その言葉に、乃亜は目を瞑って、軽く顔を傾ける。モクバは、目の前に立つ乃亜に、身を乗り出して頬にキスを送った。……何だか、微笑ましい気分になってしまう。
 「有難う、モクバ。最高のプレゼントだったよ。」
 「大袈裟だぜ、乃亜。それに、プレゼントは別にあるんだからなッ!」
 忙しい合間をぬって、乃亜のためにプレゼントを用意したというのに、無駄にするなんてとんでもない。モクバは憤慨したように、少し声を荒げた。
 「うん、わかった。…すごく、嬉しいよ?」
 「…わかれば、イイんだぜぃ。」
 声を立てて笑う二人に、揄いを含んだ台詞が割って入って来る。
 「…それじゃあ、オレも二人にキスしてやろうか?」
 「『遊戯』ッ!」
 「…頂けるんでしたら、幾らでも。」
 驚くモクバと対照的に、乃亜は冷静に軽口で返す。その言葉に『遊戯』は見事に受けて立った。二人に近付くと、髪の毛に軽く口づけを落とす。
 「「……!!」」
 『遊戯』の行動が意外だったらしく、二人共言葉を失う。まさか、本当にするとは思わなかったのだろう。その姿に、『遊戯』は不敵な笑みを見せた。
 「…キスは、大切なヒトや世話になったヒトに、感謝の意味を込めて贈ってもイイんだぜ?」
 「あ、そっかぁ…。」
 「…そう言えば、そういう習慣でもありますよね。日本じゃ、恥ずかしくてやらないでしょうケド……。」
 「そういうコトだ。……相棒たちにも、してやろうか?」
 悪ノリした『遊戯』は、テーブルで料理を口に運んでいるだろう二人を見遣る。
 「…?…何だか、二人共顔が赤いが、大丈夫か?」
 「えッ!?う、うんッ、だ、だいじょうぶ、だ、よ?ねえ、城之内くんッ…。」
 「あ、ああッ…!ゼッコーチョー、だぜ!?」
 何故か慌てているように見えるのは、気のせいだろうか……?
 3人は、挙動不審の『ゆうぎ』と城之内に首を捻る。…しかし、考えても理由がわかる筈もなく、話を転化させた。
 「そうだ、『遊戯』。このツリーから、何か香ばしい匂いがするんだけど…?」
 モクバの問いに、『遊戯』はツリーの飾りに手を伸ばす。
 「その理由はコレだな…。『ジンジャーマンクッキー』、ジンジャー…生姜のクッキーだが、シナモンが入っているから、そちらの香りの方が強いんだろう。」
 「えッ!コレ、食べられるの!?」
 「ああ、勿論食べられるぜ?…ちょっと、スパイスが効いてるから、好きかどうかわからないが……。」
 一つ外して、『遊戯』はモクバに手渡した。掌ぐらいの、ヒトの形をしたクッキーからは、なるほどシナモンの独特の匂いがする。…ちょっと残酷だが、モクバは頭から噛りつく。途端、口の中に、苦いような、それでいて甘い味が広がった。スパイシーだが、悪くない。…というか、結構美味しかった。
 「うん、美味い。…乃亜にも、半分やるぜぃ。」
 「ありがとう、モクバ。」
 仲良く分け合って食べる二人に、『遊戯』は補足する。
 「…これも、外国のクリスマスの風習だな。モクバがくれたツリーが巨大だったんで、ウチで持ってた飾りだけじゃ、足りなかったんだ。それで代わりに、コレで補ったというワケだ。……気に入ったんだったら、帰りにお土産として包んでやるぜ?」
 「ホントか、『遊戯』!?」
 「有難うございます。では遠慮なく…。」
 モクバと乃亜の笑顔に、『遊戯』もつられて笑顔を浮かべる。こんなに喜んでくれるなら、パーティーを開いたカイがあるというものだ。
 「……それにしても、兄さま遅いな。」
 何気なく呟かれたモクバの一言に、『遊戯』の表情が険しくなる。それを目の当たりしたモクバは、慌ててその場を取り繕う。
 「あ、仕方ないんだぜぃ『遊戯』。色々と挨拶とかあって、抜け出せないんだ。でも、きっともうすぐ来ると思うから……。」
 「そうそう。ああいう政界関係のパーティーって、色々と面倒なんですよね。鬱陶しいくらい、次から次へとヒトが近寄って来て、本当に困ります。」
 乃亜も必至にモクバのフォローを入れる。ヤツはキライでも、大好きなモクバを悲しませたくない。そのためなら、何だってする。
 ……実際、本来なら自分たちも出席しなくてはならないところを、免除してもらったのだ。その手前もある。
 流石に海馬家の跡取りである、彼の人は出席しない訳にはいかない。退屈なパーティーで、張り付いたような笑みを浮かべて賓客の相手をしている姿を、乃亜は容易に想像出来た。いや…今回限っては、不機嫌なオーラを発しているかもしれない。相手はさぞ災難だろう。
 「…別に、あんなヤツのコトなんて、知らないぜ。料理も残しておく必要ナイからなッ……。」
 どうやら逆鱗に触れてしまったようだ。
 新しい料理と飲み物を追加すべく、遊戯はキッチンに消える。その様子に、傍観していた『ゆうぎ』と城之内もモクバたちに合わせて、疲れたような溜息を洩らしたのだった。


 ピンポーン…。
 パーティーもたけなわ、最後のデザートを…と、『遊戯』お手製のブッシュ・ド・ノエルにナイフを入れようとした時、部屋にインターフォンが鳴り響いた。
 「…先に、食べていてくれ。」
 少々不機嫌な声音を残し、『遊戯』は玄関に向った。
 「…海馬、だな。」
 「…間違いなく、海馬くんだね。」
 「うん。兄さまだぜ、きっと…。」
 「…随分と、時間がかかりましたね。」
 皆、同じ意見に辿り着く。
 「それじゃあ、さっさと食べよっか?…二人が来るのは、遅いと思うから♪」
 ……もしかしたら、そのままお持ち帰りされちゃうかもね……。
 戻って来ないコトを予測しつつ、『ゆうぎ』は敢えて口には出さなかった。もしかしたら、この場にいる全員は、同じコトを思っているかもしれない。
 「オウッ!食べちまおうぜ!」
 「そうだな、二人の分は皿に分けとけばイイし。」
 「…じゃあ、ボクが切りますね。」
 乃亜がケーキにナイフを入れて、切り分ける。綺麗に巻かれたロール状の断面は、食べるのが勿体無いほどキレイだった。ケーキに飾ってあった、マジパン細工のサンタやトナカイ、チョコレートのプレートなどを、切り分けたケーキに乗せる。そうすると、更にケーキが豪華に見えた。
 「それじゃあ、頂きましょうか?」
 『ゆうぎ』の言葉を合図に、思い思いにケーキを口に運ぶ。甘すぎず、口の中でスポンジが柔らかく溶けていく。余りの美味しさに、言葉も出ない。
 「……こ〜んな美味しいケーキ、二人共早く食べれるとイイね〜。」
『ゆうぎ』の一言に、皆は無言で頷くだけに留まった。


 『遊戯』が玄関に到着する前に、もう一度、インターフォンが鳴る。それが、苛立っているような態度に感じて、『遊戯』は一瞬、出るのを止めようかという思考が、脳裏を過っていった。…しかし、出なければ出ないで、ヤツのコトだから執拗に呼び鈴を鳴らし続けるに違いないと思い直す。
 靴を履くのが面倒で、行儀悪く裸足で玄関の地面につく。
 ……どうせ、直ぐ中に入るのだから、後で軽く払えばイイだろう。パーティーはもう直ぐ終わるし、風呂で洗えば問題ない。『遊戯』は軽い気持ちで、玄関の鍵を開けた。
 ドアを開くと、案の定の人物が、仏頂面で立っていた。
 「遅いッ…!」
 苛立ちを隠そうともせず、『遊戯』にぶつける。…先ほど感じたコトは、間違いではなかったようだ。
 『遊戯』は一つ息を吐くと、改めて相手に向き直る。それから、自分の言い分を伝えた。謂れのない怒りを、買う筋合いはない。
 「…遅いのは、オマエの方だろ、海馬ッ!!」
 語尾が荒くなるのは仕方がない。悪いのは向こうの方だと、『遊戯』は正当な評価を下す。開けたままのドアから、外の冷気が入り込んだ。
 思った以上に響く声に、『遊戯』は自身を外に出す。背後で静かにドアが閉められていった。
 吐く息が白い。
 当然のことながら、薄着の『遊戯』には寒さが染みる。冷たくなっていく両手を保護するように、腕を組む。素足が、外気で冷えたコンクリート作りの石で痛い程だった。
 何がどうして、こんなに機嫌が悪いのかわからないが、用件をさっさと済まして、暖かい場所に戻ろうと『遊戯』は決意する。
 海馬の方がコートを着ている分だけ有利だろうが、こんな寒空にずっといたい訳がない。
 「…オマエなッ…!?」
 顔を上げ、文句を言おうと言いかけた『遊戯』の言葉に、驚きが混じる。
 突然海馬が、『遊戯』を抱き締めたのだった。キツイ抱擁に、身体が悲鳴を上げた。何とか抜け出そうと試みるが、ガッチリと抱き込まれているので、腕を動かすこともままならない。それでもどうにか、顔だけは動かせる。『遊戯』は海馬の顔を見ようと、思い切り頭を仰け反らせた。
 ……ドクッ…ン。
 心臓が、一際高く跳ね上がる。
 恐ろしいまでの、静かな表情だった。しかし、それを裏切るかのように、眼差しだけは激しい心情を表していた。…狂おしく、何かを押さえ込んでいるような、そんな感情が窺える。
 その激情のままに、海馬は『遊戯』に口付けた。深く、深く…。只ひたすらに、『遊戯』を求める。
 最初は抵抗を試みた『遊戯』だったが、頭を手で固定されてしまっては逃れる術はなく、海馬の腕が頭にまわった時点で、多少自由になった身体は、片手で易々と押さえ込まれた。最後の悪足掻きと、動かせるようになった掌で海馬の胸を叩く。だが、段々と深く、角度を変えて交わされる口付けに、段々と抵抗が弱くなっていった。
 せめて、感情に溺れてしまわないように、海馬の服を握り締める。皺が出来る程に握った指先は、微かに震えていた。
 「……ッ!」
 余韻のような溜息を零して、唇が解放される。息もつけないくらいの口付けに、『遊戯』は思わず海馬の胸に、顔を押し当てた。なかなか整わない呼吸から、切れ切れに言葉を発する。
 「…オ、マエ…な……あ、い…きな……り、ナニ…し……やがるッ…!!」
 『遊戯』の文句は、海馬にとって予想通りだったのだろう。悪びれた様子もなく、答えてやった。
 「『ヤドリギ』の下では、キスしても、構わないのだろう?」
 勝ち誇ったような海馬の台詞に、『遊戯』は顔を上げた。
 ……まさかッ…!
 リースは玄関の中に飾ってあった筈だ。今いる場所は、玄関の外である。海馬が知りようもない。
 不敵な笑みで、海馬は顎を杓った。その先を、『遊戯』は辿って行く。
 「…!?」
 驚愕に見開いた視線の先には、相棒が飾っていたクリスマス・リースがあった。……二人の様子が可笑しかった時に、気付けば良かった。きっと律儀にも、中から外に付け替え、キスされた相手に理解出来るように、相棒が直したに違いない。恐らく、ゴミを払いに行った時に行ったのだろう。
 寒さから守るように、海馬が『遊戯』を抱き締める。先ほどの激しい抱擁とは違った、包み込むような仕草だった。
 その態度に『遊戯』は力を抜き、身を任せる。
 「……機嫌は、直ったのか…?」
 「お前が、腕の中にいるなら、怒る理由はない…。」
 全く、勝手な言い分だった。……恐らく、出席したパーティーで、嫌なコトでもあったのだろう。八つ当たりにされては、こっちがたまらない…。
 そう文句を言いたいのだが、海馬の苦労がわかっているので『遊戯』は発言を差し控えた。
 海馬の腕の中は心地よい。無粋な言葉で壊すのは、勿体なかった。
 「海馬…。」
 『遊戯』が海馬の名前を呼ぶ。甘さを含んだような吐息が、冷たい外気に消えていく。
 覗き込んで来る海馬に、『遊戯』はそっと思いをのせる。羽のような口付けが、海馬の唇に落とされた。
 驚いた海馬の表情が、『遊戯』の瞼に焼きつく。こんな海馬の表情を見ることが出来るのは、きっと自分だけだろう。
「Merry Christmas、海馬…。」
 聖夜ぐらい、素直になってみても、イイかもしれない……。

*END*

このお話の設定は『芸能』シリーズだったりします。思ったより長くなってしまいました。が、これでも結構削った。ホントは表ちゃんと、城之内くんの話もある。(何で二人が赤面したのか?)序でに海馬が、強制的に参加させられたパーティーで、何があったのかとか…。二人のその後とか、残されたヒトたちはどうしたのかとかとか…。上げればキリがない。
いつか、書こうと思って時期を逃したハロウィーン話と一緒に、大幅に加筆修正して本にだそうかと思う。……何時になるかは、私にもわからない。